控えめに言って廃人でした。
2000年の気配が濃厚になってきていた世紀末に、
おれはモニターばかりを見ていた。
そこに行きたい。
そこに行きたい。
そこ、そこ、そこに加わりたい。
仕事に忙しいおれの代わりに、
とでも言いたげに、
「ログインするよ」
「ログインしたよ」
「レベルあがった」
と報告される。
遊びに忙しいおれに代わって、
創ったばかりのアバターがプレイしていた。
同一人物であるかのような、ふるまい。
別人だろ。別人らしくしろよ。別人て、なに?
「創ったの私」
「動かすの私」
「話すのも私」
そっか。
おれでは、ないね。
確かに。
それ、おれじゃないや。
「遊んでいるの」
なにを?
「話しているの」
誰と?
「約束したよ」
いつ?
見えるでしょねほら。ねぇねぇねぇ。
ね?
これが、ユグドラシル。
それが、ギルド。
じゃあ、そろそろ説明いいかなお終いで。
ありがとう。
CCするね!
CCって、なにな?
カードきゃぷ....
ちがう、ちがう、そうじゃないキャラクターチェンジのこと。
あ。その人、知り合い?
なんか話してる。
それ、NPC。
ただのNPC。だから。
そっか。
じゃあ、そこで見ててね。
うん?
教えることなんて、なにもない。なにもないの。
うん?
だって見てれば、わかるから。
やってみれば、さらに。
実際。
ほら!
ホントだ。
新しく購入したパソコンに、自己評価最高のグラボを搭載させて、IN。
いつもの音楽、いつもの場面、そびえるユグドラシル。
なるほどね。
初めての言葉。
初めての挨拶。
初めての回廊。
武器は、どこ?
使い方は?
塔に行くと掲示板があるから、そこでメンバー募集してるよ。
決めたら言って。あ、それそれ、それ。うちのギルド。
よろしくお願いします。
よろ!
よろ?
いちいち長くしないの、短く。挨拶長文無駄無駄無駄。
わかった。
じゃ。はい。さ、承認と。
お!
ようこそ~
控えめに言って廃人でした。
朝日が昇る前に仕事に向かう。
夕暮れ近く自宅に戻る。
夜とともに陽射しが降り注がれる。
見あげる空は、宇宙そのものだった。
ああ、そっか。そうだ、そうだ。
これ知ってる。うん知ってる。知ってた。思い出した。
前の星で見た景色と同じだ。
控えめに言って廃人してたよ。